新月と猫

小田急線で片瀬江ノ島駅を降りると、藍染の法被を着てランタンを下げた黒猫が出迎えてくれた。

夜道を少し歩くと旅館に着く。
部屋を案内した黒猫は僕が座ると、お茶を入れて出て行った。

早速、僕は部屋の外にある露天風呂に入る。
月明かりのない静かな海を眺めながら入る露天風呂は仕事で疲れた身体と心を癒してくれた。

風呂から出ると、いつの間にか布団が敷かれていて白猫が座っていた。
座卓に置かれた宿の案内を読むと白猫が背中をマッサージしてくれると書いてある。

お願いします。と言って布団の上に僕がうつ伏せになると、背中に白猫が乗り肉球で優しくもみほぐす。
あまりの気持ち良さに僕は直ぐに眠りに落ちた。

翌朝はスッキリと目覚める。
女将さんに話を聞くと、黒猫と白猫は保護猫で新月の夜だけ働いてくれると言う。
満月の夜はロビーにある猫ちぐらで二匹は眠る。

僕は次の新月に宿泊の予約をして旅館を後にした。