老人と健康

診察室に通されると老人は経緯を話した。
「最初は行きつけの病院に行ったんじゃが、異常なしと言われたんじゃ。いや先生、この耳鳴りが治まらんのは何かの病気じゃ言うて検査してもろても同じ結果でな。せめて耳鳴りを鎮める薬を出してくれと言っても、健康な人間に薬は出せんというんじゃ。こんなおかしな話があるもんか。わしの身体の事はわしが一番わかっとる。それで違う病院でも診てもらったら、やっぱり異常なしでな。電車で隣町の病院まで行ってもそこでも同じ。もうさっぱり訳が分からんで。先生の評判を聞きつけてはるばるやってきた次第なんじゃ。先生、わしは何の病気なんじゃろうか」
医師はカルテやレントゲンを見終えると顔を上げた。
「Ｙさん。ここに来たからには、病があれば治して健康になりたいんですよね」
「それはもちろん。何を言うかと思ったら」
「では、何の心配もいりません。異常なしですよ」

「そんな馬鹿なことあるか」