飛ぶ椅子

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 「バスだけでは不便じゃ。運転せんとどこへも行けん」「えぇ田舎は車必須、わかるわよ?でも父さんもう85、不安なの。運転やめて。代わりにこれ」娘が車椅子のような乗物を運んできた。背もたれに液晶画面、電源を入れると陽気な起動音とともにアニメの大きな目が映る。画面上のマイクに目的地を告げるとAIが解析し飛行するフライチェアは、低空飛行権が認められた80以上の老人で、自力着席ができれば誰でも乗車可能だ。
 都会では近距離の移動手段として老人に大人気と熱弁した娘が帰り、わしは強烈な無力感に襲われた。情けない。長年相棒の車を失った。歩行もこの頃ままならない。長生きしすぎたのだ。フライチェアに裏山行きを命じる。山頂の崖から一思いに落ち、逝こうと思ったのだ。
 裏山まではひとっ飛びだった。稜線を眺め落ちつくと、わしは新しい力を得たのだと気づく。頑固爺甚だしかったな、新しい相棒は弓なりの目でにっこり笑った。
ファンタジー
公開:24/09/09 16:27

こずえ

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