満ち満ちる

俺に似て野菜嫌いだった息子が美味そうにサラダを食べている。
「その野菜、ウチで作ったものなのよ。肥料に拘っているから凄く美味しいの」
妻が笑顔でそう話すものだから、試しに一つプチトマトを口に入れる。
驚いた…まるでフルーツじゃないか。
キュウリをかじると青臭さは全くなく、しゃきっとした歯ごたえが実に気持ちいい。
ピーマンは中身がないのに味に奥深さを感じる。
こんな野菜、食べた事がない！妻は野菜作りの天才なのか？
「違うわよ。さっきも言ったけど、肥料に拘っているだけ。ああ、その肥料っていうのは私の愚痴や恨み言なの。言う事を聞かない息子、ワンオペを強いてくる夫、やたらマウントを取ってくる義母。そんな鬱憤をね、肥料にしているの。ほら、野菜ってストレスがある方が美味しく育つって言うじゃない。こんなにも美味しくなったのは貴方達のおかげよ」
満面の笑みを浮かべる妻の背後に同量の怒りが見え隠れしていた。