動き回る高層ビル

高層ビル移動自由法が施行された。高層ビルが自由に立地変更できる法律である。災害時にビルごと避難できるメリットがあるが、法律の一番の狙いは高層ビルの欲求を満たしてやることである。以前から建設場所に一生縛られる高層ビルの不満はビルの基盤にぐつぐつと燻っていたのである。
法律が施行されて高層ビルは自由に動き回った。移動は夜間である。移動先は当初、国交省が指定したが、そのうち要領を得た高層ビルは気に入った空き地を見つけては自由に動き回った。低層ビルは「俺たちがビル移動社会を実現するまで低層は我慢しろ」と高層ビルに説得されて渋々じっとしている。
都心に集中していた高層ビルは拡散し、都市景観がよくなったと目を細める国交省の役人に通報があった。「大変です。渋谷で二つの高層ビルが横になって重なっています」高層ビル二棟が愛し合っているのは一目瞭然であった。「仕方ない、次は高層ビル恋愛自由法の制定にかかろう」