満潮成就

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「明日の朝、二人で浜に行こう」
窓越しの満月を横目に、少し緊張した声で彼が告げた。
交際一年、ついにこの時が来たと思った。満月と大安が重なる満大日の翌朝、海は満ち満ち潮になる。通常の満ち潮より深くて広いこの海に結婚を誓うと、生涯夫婦円満に暮らせると言われていた。

夜明け間近の午前五時、彼の漕ぐボートで浜に出る。
満ち満ちた潮が砂浜を覆い、水平線は表面張力で盛り上がっていた。
「手を出して」
彼が私の左手を取り、海にかざす。円く煌めく水平線に太陽が顔を出し、伸ばした薬指をダイヤの指輪の様に彩った。
「この先も、僕と……」
肝心な一言が飛び出す寸前、背伸びして彼の口を塞ぐ。
「満ち満ち潮の後は、何が来るか知ってる?」

満ち満ち潮で打ち寄せた波が、今度は水平線の向こうへ後退し、引き引き潮になる。
巨大なキャンバスと化した砂浜に、もうすぐ私のメッセージが浮かぶはずだ。


『結婚してください』
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公開:24/09/03 00:39
月の音色 月の文学館 テーマ:満ち満ちる

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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