いとの子

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ねえねえ、ねえったら!
木屑の中から声がして、糸鋸は動きをとめました。
「誰だ? やかましくて仕事になりゃしねえ」
木屑の中から出てきたのは、木屑でした。
「木屑じゃねえか」
ねえ、パパって呼んでもいい?
糸鋸は面食らいました。
「ふざけるな。俺に子どもなんかいねえ」
だってだって、私はパパから生まれてきたんだよ。
「うるせえ、あっちで丸まってな」

糸鋸がギーコギーコと動き出すと、また声がしました。
ねえねえ!
「うるせえ、燃やしちまうぞ」
炎上はダメだよう、推すんだよう。
「推すってなんだ」
パパは糸鋸だから押すのも引くのも得意でしょ。だったら私のこと推してよう。
私、きっとパパだけの一番になるから。
「パパじゃねえっつってんだろ、いいからあっちで丸まってろ」

木屑はその夜、焼却炉で燃やされました。
「結局燃えてんじゃねえか……ばかやろう」
糸鋸の刃がひとつ、ぽろりとこぼれた。
ファンタジー
公開:24/09/04 22:47
更新:24/09/08 00:22

てぃーえむ

さすらいのショートショートガーデニスト。

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