正気保存

私の母は若い頃から老後の認知症対策として、正気保存を定期的に行っていた。
認知機能の低下は判断力の低下にも繋がる。いつでも正しい判断を下せるよう１０代から備えていたらしい。
本当にしっかりしているな…と、感心する。
そんな母が一番正気を保存していたのは意外にも２０～３０代だった。
その年頃は仕事でもプライベートでも、一番正気が必要とされる筈だ。
ハラスメントに慣れてはいけない。悪い誘いに乗ってはいけない。若いからと言って睡眠や食事を犠牲にしてはいけない。SNSの発言にも気をつける。等々…
社会の荒波を乗りこなすの正気は保ち続ける必要がある。だからこそ疑問だった。

「何でって…そりゃ結婚が人生で一番の過ちだからよ。結婚なんて、気の迷いがないと絶対にしないわよ。それに男だって、隙のない女には声をかけてこないものよ。人生を楽しむにはね、少しくらい正気を失った方がいいの」

納得の理由だった。