部長の苦み

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「苦い顔してどうした?」
「先輩!さっき部長に注意されたんすよ。俺、目の敵にされてるんすよ」
「一杯飲んで帰るか」
俺は、先輩行きつけの飲み屋に連れて行かれた。
「お前は若いから、人生の苦味がもう少し少ない方がいいのかもしれないな」
「人生の苦み?」
「ビールの泡は苦みを吸収する役割があるんだ。人生の苦みを調整してくれる」
先輩が「いつもの」と頼むと、まさに黄金比率と言われる絶妙な泡加減のビールが出てきた。
「こいつにも頼むよ。泡多めで」
グラスの半分が泡のビールが、僕の前に置かれた。
「泡多すぎないですか?」
「お前にそれでちょうどいい」
ふと見るとほぼ泡のないビールを苦い顔で飲んでいる人が。部長じゃないか!
「注意する方も苦い思いをしてるんだぜ」
僕は部長の隣に行くと、自分のビールからたっぷりの泡を掬うと部長のビールに足した。
「お前はまだまだ甘い」
部長は旨そうにビールを飲み干した。
公開:24/09/01 21:16

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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