思い出の泡

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静かに月夜が照らす川辺。私は悲しみを流すために顔を覗きこませていた。

見ると、水面には無数の泡が揺らめいて漂っていた。

それはただの泡、特に何か理由があるわけでもないただの見る意味も無い泡。

でも私は今まで祖父と過ごした思い出が蘇った。

祭りに連れて行ってもらったり、おもちゃをいっぱい買ってもらって親に怒られたり。

自分の生きた筈の軌跡。でも私はすっかり忘れていた。

馬鹿だなと思う私。するとふと泡が弾けた。

そこにあった泡は消えただの水平が映る。

……ふと私は気付く。

泡は消える。でもそこにあったのを見た私は今を生きている。

そうだったんだ。

思い出は私たちの記憶の泡として一つ一つが薄れていくけれど、もしかしたら永遠に思い出さないかもしれないけれど。

あった事実が消えることは無い。

出会った人々がいなくなることは無い。

だから泡を飲んで自分に蓄えようと思えた。
青春
公開:24/09/01 16:15

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