泡旅

公園のベンチに彼と座っていた。


彼は「話があるんだ」と言うと、ストローを優しく吹いた。表面が虹色に揺らめきながらシャボン玉は大きく膨らんでいく。気がつけば私達二人が入れる程の大きさになった。

私達はシャボン玉の中に入るとふわりと空に浮かんだ。初めてデートした横浜の港を見下ろしながら、ふわりと風に乗った。寒くて二人で抱き合った長野のキャンプ、泳げなくて私だけ砂浜で待ってた千葉の海、早起きしてタラバガニをお腹いっぱい試食した岩手の朝市。

突然、彼がシャボン玉に針を刺して音もなく割れた。私達は公園のベンチにいた。そして彼は立ち上がり、去っていった。

隣のベンチでカップルが二人で息を合わせてシャボン玉を作っている。キラキラと輝くシャボン玉は、昔見たことがある。私は目の前に飛んできたカップルのシャボン玉を両手で潰そうとした。

シャボン玉は私の手をふわりと避け、両手には痛みだけが残った。