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落雷で停電してから1時間。真っ暗なアパートの部屋は当然エアコンも切れていて、どんどん蒸し暑くなっていく。夏の夜の停電。懐中電灯の明かりだけが頼りな状況に心細さが増していく中、外から微かに聞こえてきた美しい音色に誘われてベランダへ出る。すると、普段は一本の街灯が佇んでいるはずの場所で、長い白髪に銀色のドレスを着た人が仄かに発光しながらバイオリンを弾いていた。どこか親しみがわく温かな音色にしばらく聴きいっていると、次第に夜空の星々が音色に合わせて歌うように輝きを増し、町を柔らかに照らしてくれたことで、私と同じように音色に耳を傾けていた人達の存在に気づいた。一人じゃなかったんだ。優しい音色は私達を安心で満たしていった。
演奏が終わると、町の明かりが一斉についた。
人々の安堵の声の中、自分の部屋の明かりを確認してから振り返ると音色の主は消えていて、いつも通り一本の街灯が夜道を穏やかに照らしていた。
ファンタジー
公開:24/09/03 00:00
月の音色 満ち満ちる 光を倍にするバイオリンで 星に願いをかけてみようか

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

 

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