働き王の軌跡

0
3

働き王はとにかく働いた。
寝る暇があれば働き、目の下にはいつも濃い隈が刻まれていた。
「これ以上働けばお体にさわります」との諫言も王は無視した。

民の生活はたしかに良くなった。
作物はすくすく育ち、隣国との関係も良好で、
さまざまな文化が発展した。
それらはすべて王の偉業であった。
王は作物ごとに最適な肥料を調合し、
隣国との根回しを進め、
絵画も音楽も熱心に学び広めた。

「わしは怠け者だ。もっと優れた働き者がおる」
家来たちはその人物を探すために奔走した。
かの王の認める人物となれば、さぞ立派な者に違いない。

だが、その者を見つけることはなかった。
「王は寝不足のあまり幻想を見たのだ」と結論づけた。

働き王は死んだ。
そのときようやく皆は〝働き者〟の正体に気がついた。

王のために立派な墓が建てられた。
墓の下には民にもっとも愛された王と、
王より働いた心臓が安らかに眠っている。
ファンタジー
公開:24/09/02 18:56
更新:24/09/02 18:58

てぃーえむ

さすらいのショートショートガーデニスト。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容