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 知り合いの画家の作品をギャラリーに観に行った。『接吻』という題で、木の幹を挟んで男の子と女の子が、互いに目を閉じて唇を突き出している。凡庸な絵だと思ったが、一万円の値がついていた。
 ベレー帽姿の画家が現れ、したり顔で言った。
「明日も観て下さい。発泡剤入りの絵の具を使ったので、毎日描いた部分が膨らみ、絵が変わります」
 僕は気になって、翌日も観に行った。確かに男の子と女の子の顔は昨日より膨らみ、ふたつの唇の距離が縮まっている。値段は二万円になっていた。このまま行くと、タイトル通りに……。
 最終日、絵を見ると腰を抜かしそうになった。二人の間の幹が突如膨らみ、一部が魔女の顔になって男の子の頭を食べようとしていた。
 画家は苦笑いを浮かべた。
「木に使った絵の具が膨らみ過ぎて。でも、予想以上の傑作です!」
 絵の値段は一億円に書き換えられていた。
 感心していると、突然、木の幹が破裂した。
ファンタジー
公開:24/09/01 23:57

吉村うにうに( 埼玉県 )

はじめまして。田丸先生の講座をきっかけに小説を書き始めました。最近は、やや長めの小説を書くことが多かったのですが、『渋谷ショートショート大賞』をきっかけにこちらに登録させていただきました。
飼い猫はノルウェージャンフォレストキャットです。
宜しくお願い致します

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