化けの皮

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下ろしたばかりの、透明な薄い膜を顔にぴたりと貼る。
今や社会人の必需品となった世渡りマスク。ただ貼るだけで見目の違和や労力なく、TPOに合わせ表情や発言を管理してくれる。タガの外れやすいお酒の場でもこれさえあれば失言の恐れもない。泡で容易に取り外せて、身体への負担もない。なんと素晴らしい商品か。

特に今日はねちっこい先輩との飲み会、もといご機嫌取りの戦場である。今月何回目だよ。先輩の相手はマスクに任せて、せめて俺はお酒を楽しみたい。

席に着いたところでメニューを広げる。一杯目?生ビールに決まってる。注文後もとめどなく続く話。先輩にとって良い聞き手になれているようでほくそ笑む。きたきた。「お疲れ様でーす」なんて乾杯しながら、グラスに口をつける。柔らかい口当たりと独特の苦味。しゅわしゅわと何もかも溶かされていく。
そう、下ろしたてのマスクさえ。

ああ、お金もこれまでの努力も、全て水の泡。
ファンタジー
公開:24/08/31 20:22

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