あまい薬

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 水滴で濡れたグラスにはサイダー。微熱で休んだ私のベッドサイドに置かれ、昨晩からそのまま。残りあと二センチ。もう泡は消えた。

 小学生の頃読んだ童話に、発熱した子どもが飲まされる「咳止めシロップ」という薬が出てきたことを不意に思い出す。スプーン一杯のそれを飲まされたのはドロシーだったかアンだったか。熱のせいで赤い頬をした巻き毛の少女が、ベッドの上、重たい毛布を被り、母親から差し出されるスプーンを舌で受け、それを舐める。咳止めシロップになぜか毒気を感じた私は、その一連の描写が怖かった。小瓶から注がれた薬は茶色か緑か。サラサラか、ドロドロか。喉がしびれるほど甘い薬なんて偽薬、もしかしたら毒薬、そんな気がするのはなぜなのか。

 二十六歳になった私の甘い薬は泡の消えたサイダー。明日にはきっと熱も下がる。どうせ半分仮病なのだ。薬が毒薬でも構わない。きっとあれもこれも忘れさせてくれるだろうから。
公開:24/09/01 15:03

こずえ

ごろごろしています

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