うたかたの思い出

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ポンッ!いい音がして瓶が開いた。2人のグラスに思い出のビールを分けていく。あの人はうるさいからきっちり7:3に注がないと。20年前、結婚記念に2人で買ったビール。それからずっと冷蔵庫の一角を占めてきた。

乾杯して、一口飲んだ。ぶつかり合ってきて角が取れた、甘味のある味。けれども、ちらりと苦味が顔を出す。ビールも熟成させると、夫婦みたいな味になるのかしら。
泡が一つ消える度、昔の記憶が浮かんできた。

泡が一つ。初めて出会った日。
泡が一つ。初デートに遅刻された日。
泡が一つ。些細なことで喧嘩した日。
泡が一つ。プロポーズされた日。
泡が一つ。子供ができなくて夜通し2人で泣いた日。
泡が一つ。あの人に病気が見つかった日。

ふと我に返ると半分くらい減った私のグラスと、泡だけ減ったあの人のグラスがあった。
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公開:24/09/01 10:09

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