縁むすビール

早く、早く見つけないと。ビールジョッキの泡の矢印はあっちの方を指している。俺はひたすら人をかき分け進んでいく。普段は女っけがない俺だが、今日ここで理想の相手を見つけ、普段馬鹿にしてくる奴らに一泡吹かせてやる。

このビアフェスではご当地のクラフトビールなど様々な種類のビールが楽しめる。一番の目玉は「縁むすビール」だ。一杯3000円とかなり高いが、ジョッキの中で泡が矢印になり、理想の相手の方角を指してくれる。しかし、早くしないと矢印が消えてしまう。周りはビールジョッキ片手に、血眼で走る男女だらけだ。

そしてやっと理想の相手を見つけた。矢印も○になった。喜び勇んで女性に、「俺と付き合ってください！」と声をかけた。しかし、「え。普通に無理」とあっさりとふられてしまった。

そうか。自分にとっては理想でも、相手は違うのか。ジョッキの中で最後の泡が弾けて、生温いビールだけが残った。