泡沫の夏祭り

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 視線がぶつかって、ぱちんと弾けた気がした。
 それは指先に走る静電気の痛みでもなく、儚い線香花火の儚さでもなく、呆気なく割れる泡に似ていた。
 澪は祭りの人混みの中でさえ彼を見つけることができる自分に嫌悪した。彼は気づいているのかいないのか、その後目が合うことはなく人の波に飲まれてしまった。

「たぶん、俺は違うと思う」
 つい三日前、橙色に染まったゼミ終わりの教室で告げられた記憶がふわりと脳裏に浮いた。就活の進捗と卒論の出来具合を報告しにきた彼を捕まえて伝えた気持ちはあまりにも脆く崩れ、以来立ち直れていないというのに。
 祭りから離れようと知らず早歩きに人並みをかき分ける。足がもつれて体が傾き、転ぶと思った時には腕が思い切り引っ張られていた。
 驚いて振り向くと、焦った顔をした彼がいた。
 ぐぐっと膨らむそれは、泡のような危うさで澪の胸中を満たしていった。
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公開:24/08/31 22:13

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