はなむけ 1

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(あの人は朝凪によく映える薄紫色の煙になった
私はそれがちぐはぐな姿のように思えた
でも、やっと本来の姿に戻れたのだろう)

(あの人の棺の中には何ひとつ残っていなかったらしい)

あの人の紡ぐ言葉はいつも綿毛のようだった。
風が吹けばどこかへ。
アスファルトの上へ。
昼寝をする猫の柔らかな背中の上へ。
誰かの肩へ。
すぐどこかへ行ってしまい、二度と戻っては来ない。

たまたま私の服に引っかかっていた言葉を思い出す。

「私は楽しみを最後に取っておきたいのです」

ショートケーキの上の苺を皿の端に移しながらそう言った。
こんな綿毛がなんの役に立つ?


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青春
公開:24/08/28 23:56

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