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泡葺職人に転職して3年が経った。平たく言えば、茅葺屋根にシャンプーをする仕事だ。
前職は美容師。都会の喧騒に疲れ、今は田舎の茅葺を相手にしているというわけ。故郷にこんな仕事があると知ったのは、高校の先輩の紹介で師匠と出会ってからだが、経験を踏まえた転身。理想的なセカンドキャリアなのかもしれない。
繁忙期は春と秋。山から良い風が吹き、天然のドライヤーになるからだ。クセや毛流れなど、一つとして同じ屋根は無く、茅葺職人との連携が肝。何より、泡葺職人に求められるのは<洗う>を越えた仕事だ。歳月を重ねた風合いや、苔むした趣ある佇まいをいかに洗い、美しく仕上げるか。受け継がれる大切な家々を、当代の家主たちの思いを、茅葺職人の魂を…。自らの魂をもって、年に1度、洗い上げる仕事なのだ。
「痒いところはございませんか」
季節外れの雪のように、たっぷりと泡を乗せた茅葺屋根に呟けば、故郷の風が頬を撫でていく。
その他
公開:24/08/28 16:02

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