淡きうつろ

0
5

歩道橋の階段に、泡が蹲っていた。
泡が落ちていたのではない。蹲っていたのだ。身体を折り畳むように膝を抱えたそれは、確かに人間の形をしていた。泡のような人、いや、人のような泡。近付けば不揃いな空気のセルが見えてくるような、荒い泡。
数人の小学生がやってきた。
「あ、泡だ!」
ドタドタと突風のような勢いに、泡は揺れる。彼らは躊躇うことなく、その手に泡を掬っていく。抉られ歪になっても、少しするとしゅわしゅわと馴染んだ。仲睦まじい老夫婦が、若いカップルが、サラリーマンが、みんなみんな、その手に泡を掬っていく。その度に抉られ、その度に馴染む。それでも次第に、蹲るその姿は、大人から子どもへ返るように、小さく弱くなっていった。
夕立。幾つもの雨粒が矢のように、銃弾のように、泡を穿つ。私は思わず駆け出し、形を失っていく泡を庇うように抱きしめた。
「もう、いいよ」
泡は、しゅわしゅわと、私に馴染んでいった。
その他
公開:24/08/28 15:55
更新:24/08/28 16:03

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容