バブルリング

先月水族館に行ってから彼の様子がおかしい。
よく一人で出かけるし、お風呂の時間も一人で何かしている様子だった。
何かにハマりやすい人だけど、今回は特に熱中しているようだった。

「明日プールいかない？」
彼が急に切り出してきて驚いた。

「ちょっと潜ってみて」
言われるがまま潜ると、彼が私に向かって口から泡を出してきた。
その泡は文字のような形をしていた。
『け』
その後も続けて泡を出してきた。
『け　つ　こ　ん　し　よ　う』
そして彼は目線をずらし、小さいリング状の泡を出した。
それは私の左手の薬指にはまった。

「水族館でイルカを見た時に思いついて、特訓したんだ！」と満面の笑みだった。

呆気に取られながら、泡の言葉には返答せず帰り道を歩いた。
「それで、指輪はいつくれるの？」
「まだ練習中だからね。次はもっと長持ちするのをつくるよ」
この人とは苦労するだろうなと心から思った。