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 村ではお盆に校庭で泡玉焼きと呼ばれる祭事が行われる。
 願いを込めた泡玉を竹で組んだ櫓の中に納め燃やすのだ。
 火のついた泡玉が天に昇り神様が願いを叶えてくれる。
 今年で祭りは最後だ。廃村になる。そのせいか、祭場には移住していった村人の姿が見える。
 みな最後の泡玉焼きを見に故郷に戻って来ていた。
 櫓に火がつき泡玉が夜空に昇っていく。
「かっちゃん」 
 名を呼ばれて振り向くと、浴衣を着た女性が立っていた。初恋の人だ。
「さっちゃんも戻ってきたんだ」
「うん 最後の泡玉焼きだしね。何をお願いしたの?」 
「内緒」 
「ケチ。…綺麗ね」 
2人で夜空を見上げた。火のついた泡玉が昇るさまは美しく幻想的だ。
「ねえ、かっちゃんって私のこと好きだったでしょ?」 
「うん 大好きだったよ」 
 そう言うとさっちゃんは消えていった。
 僕の願いは、死んだ君にもう一度会わせてくださいだよ。
 
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公開:24/08/30 15:23

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