蜜室（みっしつ）

「この鍵を１ヶ月の間、誰にも渡さぬようお願いします」
管理人を名乗る人から、とあるの部屋の鍵を受け取った。
これを１カ月間、誰にも渡さないだけで百万円が貰える。とても怪しいバイトだが、私はそれに飛びついた。
身の危険を感じていたのは最初の１週間だけ。１カ月はあっという間に過ぎ、私は約束の百万円を受け取った。
管理人は私から受け取った鍵で近くのボロアパートの扉を開く。
部屋はアパートの外観同様、ボロボロだった。壁の傷からは得体のしれない粘液が漏れ出ている。
その粘液のものだろう。甘い匂いが鼻をつく。甘いニオイに誘われて、アパートの住人が次々と顔を出す。
住人達は部屋にやってくると一心不乱に壁の傷をなめ始める。その姿はまるで樹液に群がる昆虫のようだ。
「もう１ヶ月、鍵を預かってくれませんか？」
住人達が見つめる中、私は管理人の誘いを断った。
住人達はがっかりした様子で壁の粘液を再び舐め始めた。