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祖父の趣味はきれいな風景を切り取ることだった。写真を撮るのでも、絵を描くのでもなく、本当に「風景を切り取る」のだ。
幼い頃、一度だけ、庭に咲いた真っ赤なバラを切り取るところを見せてもらった。祖父はおもむろに腰に提げたシザーケースから金色のハサミを取り出し、僕の目の前で技を披露してくれた。みずみずしく花開かせていたバラが、ハサミを進める方向に吸い寄せられるように近づき、最後には一枚のポストカードになってしまった。
茎だけ残された鉢植えと手渡されたポストカードを何度も見比べている僕に祖父は言った。
「他にもたくさんあるが、いつか返しに行ってくれないか」
「どうして?」
「わがままで持ち帰ってしまったことを後悔しているんだよ。できるだけたくさんの人に見てほしいんだ」
大人になった僕は、祖父の遺言どおりにハサミを葬り、全国行脚の旅に出ている。誰かを笑顔にするために。
幼い頃、一度だけ、庭に咲いた真っ赤なバラを切り取るところを見せてもらった。祖父はおもむろに腰に提げたシザーケースから金色のハサミを取り出し、僕の目の前で技を披露してくれた。みずみずしく花開かせていたバラが、ハサミを進める方向に吸い寄せられるように近づき、最後には一枚のポストカードになってしまった。
茎だけ残された鉢植えと手渡されたポストカードを何度も見比べている僕に祖父は言った。
「他にもたくさんあるが、いつか返しに行ってくれないか」
「どうして?」
「わがままで持ち帰ってしまったことを後悔しているんだよ。できるだけたくさんの人に見てほしいんだ」
大人になった僕は、祖父の遺言どおりにハサミを葬り、全国行脚の旅に出ている。誰かを笑顔にするために。
ファンタジー
公開:24/08/29 09:06
☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。
清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選
ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)
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