甘夏の肉離れ

　深夜の果樹園。果物同士の何やらひそひそ話が聞こえて来た。

「おい、甘夏。お前さ、昨日オーナーがバーベキューしてる時、しれっと肉をかすめ取って食べてただろう」
「え、ひょっとして見てたの？　梨くん」
「ああ、お前は熟成期間ですでに木から降りてるけど、俺はまだ高いところから見てられるからな。甘夏のクセに肉なんて食べてたら腐っちまうんじゃないか」
「うん、そうだよね。でも、美味しそうな匂いに負けちゃったんだ。それで、オーナーの隙を見て何枚かいい焼け具合の肉を横から失敬して食べちゃった。でも、やっぱりダメだよね。果物と肉の相性がいいのはメロンと生ハムくらいだもんね。甘夏の僕が肉を食べるのはいけないよなぁ。やっぱ。僕も甘くなりたいからもう止めるよ」

　こうして甘夏は梨に注意された後、少しでも甘くなるために肉を食べることを我慢することにした。
　甘夏の肉離れは食欲との戦いの始まりとなったのだ。