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手洗いのあと、洗面台に残った石鹸の泡を流そうと、蛇口の水を掌に伝わせて泡の前に落とした。泡は水に押されて排水孔近くまで流れ、ゴルフボールがカップに蹴られるようにクルリと孔を周回して遠ざかった。掌の角度や蛇口からの水量を調整して何度繰り返しても埒があかない。ならば泡を消滅させてしまえと、水を掌にためて直接泡にぶつけてみた。だが、泡は三つに分裂しただけで消滅はせず、水の勢いのせいか、それぞれが元の泡と同じくらいの大きさになっていた。三塊の泡は排水孔からほぼ等距離の、接待ゴルフならOKをもらえるかどうかギリギリの位置にあった。
掌で擦って流してしまえば簡単に済むだろう。しかしそれでは負けた気がする。それはこの状況をゴルフに例えてしまったせいかもしれないし、これまでの容赦ない水攻撃に耐えてきた泡への敬意の現れだったのかもしれない。
わたしはこの泡と悔いなく戦うため、会社に欠勤する旨を伝えた。
掌で擦って流してしまえば簡単に済むだろう。しかしそれでは負けた気がする。それはこの状況をゴルフに例えてしまったせいかもしれないし、これまでの容赦ない水攻撃に耐えてきた泡への敬意の現れだったのかもしれない。
わたしはこの泡と悔いなく戦うため、会社に欠勤する旨を伝えた。
その他
公開:24/08/25 10:34
泡
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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