シャボン時間

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泡に時間を込めるという。
駅前でシャボン玉のパフォーマンスをしていた。数人がたくさんのシャボン玉の塊を持ち帰っていた。
「あなたは何を思い出したいですか?」
聞かれて、昔は旅行が趣味だったと答えた。
たくさんの泡を家に持ち帰ってリビングで観察した。見ているうちに一つがパチンとはじけた。
青々とした草の香りが周囲にただよう。
場所は思い出せないけれど懐かしい香り。すぐにパチンと別の泡がはじけた。それは香りや音、光になって私を過去に連れて行ってくれた。
ふと夫を思い出す。思い出の中ではいつも二人でいたような気がする。
シャボン玉を夫がいる部屋に連れて行った。
パチン。
「なんだ?」
はじける泡に驚いた夫と目が合った。
「駅前に不思議な人がいたのよ」
「相変わらず、不思議なものが好きだね」
久しぶりの会話。私はつかの間の奇跡に感謝した。
その他
公開:24/08/25 03:58

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