泡沫のあなた

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湖の底からこぽこぽと泡が浮き上がっている。私はその様子を湖岸に設えられたデッキから眺めていた。
底に何か生き物がいるのか。それとも、微生物が出すガスだろうか。いずれにせよ湖で生命が活動している証だ。だとしたら、この泡にはかつて湖に沈んだものの生命が含まれていると言えるだろう。
「こんにちは」
だから、私は話しかけることにした。
泡は大きさを変えながら湖面に次々と浮かんでは消える。私はなんてことのない話題を語り掛ける。当然のように返事はない。話題も尽きた頃、私はあの日渡すはずだった花を湖面に浮かべる。
「あの時、迎えにいけなくてごめんね」
こんな懺悔ができるのは、返事が無いとわかっているからだ。それでもここに来たのは、あなたの近くに居たかったからだ。
気づけば泡は消えていた。静かになった湖面に取り残されて、私の目からはようやく涙が流れた。
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公開:24/08/24 23:38
更新:24/08/24 23:39

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