ルルちゃん

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「ルルちゃん・・。」思わずこぼれた私の声が、思ったほど大きくてハッとした。
 石けんで手を洗っていると、泡がムクムクと広がり、先日寿命を終えた愛犬のルルちゃんにとても似ていた。白い毛をムクムクさせていた頃にそっくりだったのだ。
 「ルルちゃん・・。」泡でできた犬を見ながら、今までの日々が思い出されて心がぎゅっと酸っぱくなる。どうして犬は黒い丸い目が可愛いのだろう。どうしてその丸い目は私をじっと見てくれていたのだろう。もうその時間は、二度と来ない。次々と愛犬との日々が浮かんでは消えてゆく。人はよく、うたかたの日々と表現するけれど、本当にそうだと思った。泡は必ず消えてゆく。石けんの泡が小さくなると、愛犬に似た泡も消えていった。そして外に出ると、私の涙はこぼれ落ちずにまぶたのふちで光った。たまった透明な涙は、この間までルルちゃんと散歩した景色を映して、どこまでもにじませていた。
ファンタジー
公開:24/08/24 22:04
更新:24/08/24 22:09

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