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おとうさんが大好き。
おとうさんの優しい目や、頭をなでる手、わたしの名前を呼ぶ声。みんなみんな、大好き。
でも、ひとつだけ苦手なところがある。それは、おとうさんの黒いひげ。ほおずりをされると、ちくちくして痛い。わたしが思わず悲鳴をあげると、おとうさんは「ごめんなあ」としょんぼりしてしまう。
夜になると、おとうさんはお風呂でひげを剃る。おとうさんの口元にもこもこと泡立つせっけんの泡は、まるでまっしろなひげだ。おとうさんがわたしのために作ってくれる白いひげは、嫌いじゃない。でも、その白いひげはすぐに流されてしまう。
ひげを剃り終えたおとうさんは、いそいそと冷蔵庫に向かって、冷えた缶を取り出す。トットットッ、と中身をグラスに注ぐ。そして、夢中でグラスに口をはこぶ。クシャッと笑うおとうさんに、わたしもつられて笑顔になる。
しあわせそうなおとうさんの口元には、再びまっしろなひげができていた。
その他
公開:24/08/27 20:10
更新:24/08/27 20:23
#クラフトビールコンテスト② #泡

内池陽奈( 東京都 )

著作『空色ネイル』第19回坊っちゃん文学賞佳作受賞。
心のきらめきを書き留めます。
 

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