水面にて

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不吉な夢を見た。
僕は水の中にいて、それを隔てた先にはあの子。あの子が微笑むと、僕は息が持たずに水の中でもがき始め、僕の吐いた気泡が、その視界を埋めつくす。

「はっ! 夢、か……」
目を覚ました僕は、本当に水の中にいたかのように汗でびしょ濡れだった。

決戦当日。
あらゆる愚策の果て、僕はあの子との花火デートの切符を手にした。
今日こそ決める!
鼻息荒く待ち合わせ場所に着くと、そこには浴衣姿の可憐な女神か佇んでいた。
高鳴る胸を抑え、僕は女神に微笑む。

花火も終盤に差し掛かった頃、誰何の声がこだました。その声に僕は気が付けば、川の中。目の前には溺れる少年!しかし!
僕は泳げなかった!

沈み行く水の中で、気泡で見えなくなるあの子の姿。ああ、正夢だった…

気が付けば揺蕩う水面には僕と彼女。
そして頭上には花火。
火花に照らされた水面に、彼女の足が一瞬だけ虹色に輝く尾鰭に見えた。
青春
公開:24/08/21 03:28

Kaji

作家を目指すしがない中年サラリーマンです。ショートショートはとても苦手なので敢えてこちらで挑戦しようと登録しました!
よろしくお願いします

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