バブルバス

2
3

 先輩。耳の後ろに泡がついてますよ。と午後3時の休憩室で指摘された。泡? と、わたしは手を耳へ。すると露わになった腋から、フワリと泡が落下した。耳の後ろに泡がついている、と指摘してくれた後輩クンは、この、腋から落下した泡はスルーしてくれたので、わたしは耳の後ろにあてた人差し指の先に、チリチリと泡の弾けるのを感じながら、つま先で、床に落ちた泡を踏み消そうとした。すると、内腿を伝ってとめどなく泡が滴り落ちてきた。後輩クンは、なんだかきまり悪そうに部屋を出ていった。
 無理もない。泡が落ちてくる部位として許されるのは、腋までだとわたしも思う。それにしてもなぜ? 胸元を緩めて確認してみると、鎖骨の高さできめ細かな泡が揺れている。これは昨夜、ホテルで見た光景だ。
 お風呂みたいな香りがしない? というざわめきが広がっていく。わたしは恥ずかしくなって泡に潜った。泡は静かに温かく、わたしを包んでくれた。
ファンタジー
公開:24/08/24 19:06
更新:24/08/25 10:04

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容