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海辺にある廟院には、傷ついた神社の神さまが治療のため訪れる。賽銭をはずんだのに願いが叶わなかったと言われて落ち込んでいる神さまがほとんどで、受付の私から見ても再起不能ではと心配になるほど意気消沈している御方もいる。
多忙のさなか、やっと確保した昼休憩。同僚の出田さんは、「こんなところ辞めてやる」と息巻く。
「いったい何が嫌なんですか?」
「全体的にジメッとしてるところに決まってるでしょ」
「彼らだって病みたくて病んだわけじゃないですよ」となだめたものの、今日の出田さんは鎮まりそうになかった。奥の手は使いたくなかったけど、仕方がない。
「出田さん、お手を拝借」
無理矢理の柏手で、出田さんが落ち着きを取り戻した。廟院に集まった負のエネルギーは、時に私たちのような眷属の正気を奪うのだ。
「危うく角が出るとこだったわ」
「間に合って良かったです」
急いでご飯をかきこみ、仕事に戻った。
ファンタジー
公開:24/08/24 14:41

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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