その盆、俺は、死んだ親父の歳に追いついた

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翌日、再び墓を訪れた俺は、親父にビールを供えると、車から墓石を見張った。
やがて親父の墓の前に、小男が立った。
俺は車を降りて、足音を忍ばせ男に駆け寄った。男は俺に気づかず、親父に向かって手を合わせ、頭を下げている。何度も何度も。
男が躊躇いがちにビールを取って振り返り、あっという顔をした。
「魔が、差しました」
とっちめてやろうなんて気持ちはすっかり消えていた。それより男の所作に心打たれていた。親父の墓に、あんな丁寧に頭を下げられたら、泥棒であることを差し引いても有り難い。
「よかったらそれ、飲んでください」
男は恐縮し、首を振った。昨日も飲んだんだ、今さら遠慮するのもおかしい話だ。
「え? 昨日は私、来ておりませんよ」
昨日ビールを空けたのは、目の前の男じゃないのか。だとすると一体誰が?

「誕生日おめでとう」
口のまわりに泡をつけた、悪戯っぽい笑みを浮かべる親父の声を聞いた気がした。
ファンタジー
公開:24/08/18 11:36
更新:24/08/19 13:50

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