愛した黒猫

私が暮らす田舎には少し変わった風習がある。農家は必ず黒猫を飼い、大切にする。
米農家の多いここら一帯では、ネズミから穀物を守る為に飼う人が非常に多い。年貢として米を納めていた名残が未だにある。
黒猫は幸運を招く猫。大切にされた黒猫は亡き後も飼い主の様子を見に来てくれる。
夏の代名詞、入道雲。真っ黒い雷雲は愛した黒猫が帰ってきたものだと皆信じている。
ゴロゴロと喉を鳴らす真っ黒い雲に、甘えん坊が帰ってきたと飼い主達は空を見て笑う。
入道雲がやってくると、農家は飼っていた黒猫の大好物を畑に置く。
暫くすると、その大好物に雷が落ちる。電光石火の早さで大好物を空へ持ち帰っているようだ。
この雷が米作りには大切でね。美味しい米を作るには空気中の窒素を稲に届けてくれる雷が絶対必要なんだ。
これで今年の豊作も約束されたようなもの…だが今年も豊作である事より、愛した黒猫が帰ってきてくれた事に皆喜んでいる。