結婚指泡

2
7

店員は石座の上に泡があしらわれた指輪を取り出した。
「ダイヤモンドよりも今の主流は泡なんですよ」
「泡?その…弾けて消えてしまうでしょう」
信じがたいが宝石のように美しいその泡を男は恐る恐る触ってみた。弾力があり変形する。
「南米奥地でしか取れない神秘的な泡なんですよ。実はダイヤのような硬い物に永遠の愛を誓うのは危険な行為なんです。この泡に誓った愛は柔らかく育まれます。やはり何事にもあそびが必要ですよね」

「…それで、騙されたってわけね」彼女は石座が空席になった指輪を摘んで呆れた。
「ごめん。ダイヤで買い直して改めてプロ…」
「待って。これでいい」彼女は薬指に指輪をはめた。
「詐欺師にはしゃくだけど、ダイヤに丸投げされた愛よりもこうやって何気ない日常を二人で共有できるなら、こっちの泡でいい」
それを見て、男はありがとうと苦笑いする。
そして石座の上で輝くグラスビールに乾杯をした。
その他
公開:24/08/17 07:46
更新:24/08/25 00:11

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容