小さい夏

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「ねぇ、おじいちゃん! これ開けてもいい?」
夏休みで泊まりに来た孫が持ってきたのは、ブリキの古い空き缶だった。物置きにしまい込んで長いこと所在を見失っていたが、こどもにはなくしものを見つける才能が備わっているのかもしれない。
「あぁ、いいよ。でも開けるのはそうだな、夜にしよう」
「そんなに待てないよ!」
「楽しみはみんなで分け合ったほうがいいんだぞ」
「そうなの?」
「あぁ、そうだよ」
渋々ながらもうなづいた孫と、縁側でスイカを食べる。そして買い物に出かけて戻ってきた息子夫婦とともに夕飯を済ませると、孫に空き缶を手渡した。
「さぁ、開けてごらん」
「やっぱり嫌だ!」
「どうして?」
「夜まで待てたんだもん、明日か明後日に開ける!」
しかし結局、箱は開けられることなく、また物置きの奥に押し込まれてしまった。

夏の小さな思い出を、我が命の灯火が消える少し前に思い出している。
その他
公開:24/08/15 15:07

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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