泡沫候補

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「税金をなくします!私に投票すれば、未来はバラ色です!」
私は必死に叫んだ。広場に集まった群衆は、私の言葉に一瞬ざわめいた。だが、すぐに冷めた視線に戻り、ヤジが飛んだ。
「どうせ落選するんだろう!」
その通り。独裁国家の選挙だ。本命以外の候補者は、私を含めて全員「泡沫候補」と呼ばれている。では、なぜ立候補したのか?私は強制的に立候補させられただけ。民主的な国であると偽装するために。全てが欺瞞だ。
だが、私は声を限りに公約を叫ぶ。他の候補者も、群衆の関心を惹くために、派手な服装、過激なスローガン、体を張ったパフォーマンス、何でもやった。勝ち残るために。

「頼む、誰か、誰か投票してくれ!」

だが、結果は無情。選挙が終わり、私は結局一票も得られなかった…

その瞬間、体が軽くなり、ふわりと空高く浮かび上がる。世界が急速に遠ざかり、用済みになった泡沫候補達はパチンと弾け、跡形もなく消え去った。
ホラー
公開:24/08/15 11:58
更新:24/08/20 13:15

尻野ベロ彦( 東京 )

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。
子どもの頃「将来の夢は小説家」と言っていました。
「note」にも、細々と500字程度のショートショートを書いています。
https://note.com/sirino

【トピックス】
・第16回「1ページの絵本」入選
・第20回「坊っちゃん文学賞」佳作
・プチコン5 ~遊園地~ 優秀賞

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