深海の泡

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ダイビングをしていたら、海底から温泉が噴き出しているのを発見した。「すごい!」僕は自分がみつけた海底温泉を堪能しようと、湧き上がる泡に包まれながら目を閉じた。海に溶け込んでしまいそうな心地よさだ。

しばらく仰向けになっていると、泡の音に混じって歌声が聞こえてきた。目を開けると、隣で美しい女性が歌っている。白い肌、長い黒髪、ピンクに染まった頬と唇。腰から下には金色に輝く尾ビレがゆらゆらと揺れている。そう、彼女は人魚だったのだ。

驚く僕に、人魚が微笑む。僕はその笑みに誘われるように、人魚に近づく。すると彼女は手を広げ、僕を抱きしめた。その瞬間、体の中心から痺れるような快感を感じ、僕の体は白い泡となった。泡の中を人魚が楽しそうに泳ぎ回る。その尾ビレにかき回され、僕は海とひとつになる。白濁した水の中、持ち主のいなくなったアクアラングとダイビングスーツは、ゆっくりと暗い海の底に沈んでいった。
ホラー
公開:24/08/16 19:57
更新:24/08/16 21:24

尻野ベロ彦( 東京 )

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。
子どもの頃「将来の夢は小説家」と言っていました。
「note」にも、細々と500字程度のショートショートを書いています。
https://note.com/sirino

【トピックス】
・第16回「1ページの絵本」入選
・第20回「坊っちゃん文学賞」佳作
・プチコン5 ~遊園地~ 優秀賞

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