マザーツリー(後)
0
1
あの木は挿し木で増えるんですって――
マザーツリーについてそれとなく口の端にのぼらせた時、あの娘が言っていた。
木の話をしているだけなのに、娘の声がまるで一粒一粒がきらめく宝石みたいに聞こえて、耳を離れなかったあの言葉。
若者は小枝を拾い上げ、両手でそっと抱くようにして踵を返した。
それから幾年かの後、肥沃な土に植えられて背を伸ばした枝は、一本の木と呼んでも良いほどに深く根を張って立っている。
マザーツリーの子供と言うべき小枝は、若者の家の小さな庭の主となったのだ。
朝の陽射しの中、庭の草木の世話をする彼の耳に、妻の呼ぶ声が届く。
「あなた、この子をあやしてやって。ちょっと手が離せないのよ」
あの時と変わらない、きらめく宝石のような声が、庭木の若い葉と彼の胸を震わせた。
マザーツリーについてそれとなく口の端にのぼらせた時、あの娘が言っていた。
木の話をしているだけなのに、娘の声がまるで一粒一粒がきらめく宝石みたいに聞こえて、耳を離れなかったあの言葉。
若者は小枝を拾い上げ、両手でそっと抱くようにして踵を返した。
それから幾年かの後、肥沃な土に植えられて背を伸ばした枝は、一本の木と呼んでも良いほどに深く根を張って立っている。
マザーツリーの子供と言うべき小枝は、若者の家の小さな庭の主となったのだ。
朝の陽射しの中、庭の草木の世話をする彼の耳に、妻の呼ぶ声が届く。
「あなた、この子をあやしてやって。ちょっと手が離せないのよ」
あの時と変わらない、きらめく宝石のような声が、庭木の若い葉と彼の胸を震わせた。
ファンタジー
公開:24/08/13 13:47
コメントはありません
ログインするとコメントを投稿できます