マザーツリー(前)

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島の北東部の浜には「マザーツリー」と呼ばれる大木がある。

とは言っても、これといって何の変哲もない木だ。
樹齢が長かったり枝振り豊かで大きな木なら、もっと立派なものが島のあちこちにある。

海岸に切り立った崖の真下で、陽射しから逃れて憩うように佇むマザーツリーを、一人の若者が戸惑うような表情で見上げている。

「好きな娘ができたら、マザーツリーに打ち明けてみな」
幼い頃から家族や友達から、からかうような調子で伝えられてきたその伝承。

それを真っ直ぐ信じたわけではないが、この胸の内を打ち明ける場所はここ以外に無いような気がしたのだ。

若者は焦がれた胸をそっと開くように、愛しい娘の笑顔を思い描く。

あの娘と二人でずっと暮らせたら、他に何も欲しいものなんか無い。

その時不意に風が吹き、マザーツリーから一振りの小枝が若者の足元に舞い落ちてきた。
ファンタジー
公開:24/08/13 13:46

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