泡姫

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「もうすぐね」泡姫は静かに微笑む。
「私、二十歳になるのね」

「うん」
 僕は頷くことしかできないでいる。

「この瞬間をあなたと迎えられること、
私、とてもうれしいの」

「うん」

「ねえ、手を握っていて」

「うん」
 金色の海に手を繋ぐ僕らの影が揺れる。

「私、こわい」

「うん」

「私を忘れないで」

「うん」



 二十歳の誕生日、泡姫は泡になって消えた。たくさんの泡が泡姫を包んだ。僕はその宿命を祈る思いで見守っていた。

「きみを忘れない」
 一つ残った泡をそっと抱きかかえ、僕は誓った。
ファンタジー
公開:24/08/12 06:55
更新:24/08/12 12:47

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