嘘をついたら泡になる

「嘘をついたら体が溶けて泡になってしまうよ」小さい頃、母に言われた。片付けが嫌いだった僕は、やってないのにやったと嘘をついた。泡になってしまったらどうしようと思ったけれど、大丈夫だった。その後も「宿題、もう終わった」とか「テスト用紙はまだ返ってこない」とかいろんな嘘をついた。でも泡になるなんてことはなかった。
　
「ナメクジに塩をかけると溶けて泡になるんだ」と前に友達が言ったのを思い出した。やってみるとナメクジは本当に溶けた。僕はふと、ナメクジにとっての塩が人間にとっての嘘だったら、と想像して恐くなった。

思い出してしまった。小さい頃、父が突然いなくなったあの日の母の言葉。「嘘をついたら体が溶けて泡になってしまうよ」のあと「お父さんみたいに」とつけ加えた母。そのあと「あの人『ギャンブルはもうやめる』って約束したのに嘘ついたからさ」と母は呟いた。その時の母は恐ろしく虚ろな目をしていた。