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ひと吸い。一寸口を離して、もうひと吸い。深く肺に溜めてから吐き出す紫煙は、スカイスクレーパーの屋上、一葉旗を揺らしたようであった。まだ日付も変わる前だと言うのに窓々の明かりはまばらで、十七階から見下ろす街からは鯨のいびきが聞こえる。先端の火種へ、私がぺとぺとと唾液をつけ始めたのを認めると、彼は紅い三日月に眼を細め、満足気に瞬きを手放した! 彼ももう、黒くて大きな腹の中。
多くの友人たちを見送ってきた。
搭乗口前ロビー、私を強く抱き寄せるその腕の先には搭乗券の挟まったパスポート。私のとは違った色、違った質感のパスポート。上空三万フィート、美しい国民のやさしい寝息は同心円状の波紋になって広がり、ぶつかり合っては夜気へと溶けていく。横切る光の点滅はあめんぼ、声を殺して燃えている。御名答、鯨は彼らが灰でできているわけだ。
さあ、ほら。はやく部屋に戻ろう。鯨のくしゃみはいつ私たちを吹き飛ばすかしら。
多くの友人たちを見送ってきた。
搭乗口前ロビー、私を強く抱き寄せるその腕の先には搭乗券の挟まったパスポート。私のとは違った色、違った質感のパスポート。上空三万フィート、美しい国民のやさしい寝息は同心円状の波紋になって広がり、ぶつかり合っては夜気へと溶けていく。横切る光の点滅はあめんぼ、声を殺して燃えている。御名答、鯨は彼らが灰でできているわけだ。
さあ、ほら。はやく部屋に戻ろう。鯨のくしゃみはいつ私たちを吹き飛ばすかしら。
公開:24/08/14 16:11
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