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八百年連れ添った妻が亡くなった。
生前の遺言に従い、遺灰は海へ撒く事にした。故郷を捨て、駆け落ち同然に嫁いだゆえか、ついぞ『帰りたい』とは口にしなかったが、骸だけでも生まれ育った水に戻してやりたいと思ったのだ。
冷たくなった女房を腕に抱き、出逢った浜へ連れて行った。色の失せた唇に末期の潮を含ませ、荼毘に付す。
青い炎が亡骸を包み、やがて真白い砂の様な灰がひと掴み残った。
嫁入り道具の手箱を紐解き、蓋を開ける。
開けるものではないと言って、肌身離さなかったそれは、ぶくぶくと泡立ち揺れる紺碧の海底であった。
終生帰らぬ覚悟で、せめても故郷のよすがにしていたのか。まだ温かい灰を掬って手箱の泡に振りかけると、水煙がうねりを上げて空へ昇り、海を覆うばかりの雲を作った。
共に過ごした八百年より、この先の二百年がよほど永く感じる事だ。
人の皮衣を脱ぎ捨て、舞い散る泡飛沫の中、沖を目指して飛び立った。
生前の遺言に従い、遺灰は海へ撒く事にした。故郷を捨て、駆け落ち同然に嫁いだゆえか、ついぞ『帰りたい』とは口にしなかったが、骸だけでも生まれ育った水に戻してやりたいと思ったのだ。
冷たくなった女房を腕に抱き、出逢った浜へ連れて行った。色の失せた唇に末期の潮を含ませ、荼毘に付す。
青い炎が亡骸を包み、やがて真白い砂の様な灰がひと掴み残った。
嫁入り道具の手箱を紐解き、蓋を開ける。
開けるものではないと言って、肌身離さなかったそれは、ぶくぶくと泡立ち揺れる紺碧の海底であった。
終生帰らぬ覚悟で、せめても故郷のよすがにしていたのか。まだ温かい灰を掬って手箱の泡に振りかけると、水煙がうねりを上げて空へ昇り、海を覆うばかりの雲を作った。
共に過ごした八百年より、この先の二百年がよほど永く感じる事だ。
人の皮衣を脱ぎ捨て、舞い散る泡飛沫の中、沖を目指して飛び立った。
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公開:24/08/13 20:37
クラフトビールコンテスト
テーマ:泡
異聞八百比丘尼浦島考
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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