歌うたい(後)

0
1

頭上には満天の星が瞬いている。

その輝きは誰に対しても平等に降り注がれているはずなのに、島の高台で生まれ育った娘たちは着飾って優雅に歌をうたい、私はと言えば息つく間もなく顎で使われている――

立ち止まって天を見上げるイニーの背中に、候補者の声が飛ぶ。

「ちょっと、蜂蜜入りのライムジュースはまだなの?さっき頼んだのにもう忘れたの?早くして」

イニーはゆっくりと振り返ると、おもむろに口を開いた。

「自分で持ってきなお嬢さん」

自分でも信じられないくらいドスの効いた重低音が響く。

「蜂蜜ジュースじゃどうにもならないお前のズレたピッチ。このイニーの前じゃお嬢もただの丁稚。おべべの裾をからげて出直しなビッチ」

星空の下、鳥や獣が嬉しげにYO!YO!と叫び声を挙げた。

イニーは急遽設けられた審査員特別賞に輝き、次のコンテストから「ライム」と呼ばれる新しい様式が加わったという。
青春
公開:24/08/11 19:46

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容