歌うたい(前)

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歌うたいを決めるコンテストは、今年も大賑わいだ。

四年に一度のこの催しは、島の歌い手として最高の名誉である「歌うたい」を決めるべく、我こそはと名乗り出る者を集めて星空の下開かれる。

思い思いの衣装で着飾り、髪を結い上げたり大きく波打たせたりと華やかないでたちの出場者たちが、あちこちで発声練習をしている。

さながら美しい鳥や獣がざわめく熱帯雨林に迷い込んだようだ。

世話係として駆り出されたイニーは、一息つく間もなく働いている。

やれ髪飾りを草むらに落としただの、喉を潤すための飲み物が足りないだの、本番を控えてピリピリしている候補者たちからの様々な要望に応えて動き回るうちに、苛立ちが募ってくる。

同じ年頃の女の子同士なのに、どうして私は小間使いみたいな事ばかり――

常日頃抱いていたもやもやした思いが、はっきりとした形を持って浮かび上がってくる。
青春
公開:24/08/11 19:45

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