ビールの泡沫

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 ビールの泡は感情。
 それまで溶けて見えなかった感情の表出。それが形を取って、膨らみながらやがて水面に出て弾ける。その瞬間、感情は言葉になって見えなくなる。
 言葉は宙を舞い、君の耳へ、心へと届く。君はくすぐったそうに、少し身を捩る。
 酔いが進むほどにビールは温く、泡の勢いは落ちていく。
「ふふ、可愛い人」
 頬を赤らめた彼女はビアグラス片手に静かに微笑む。酔いが進んで頭が回らない僕は、言葉を紡げないで黙ってしまう。それでも確かに幸せな瞬間だ。
 絶対に忘れない瞬間。そんな風に思った瞬間はこれまで幾つもある。だけどもその内のほとんどが消え去ってしまって、言葉も消えて、感情だけが心の奥底のビールへと戻っていく。いつか再び言葉になる為に溶けて、再び表出するのを静かに待っている。
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公開:24/08/10 21:54

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